「工場夜景」というジャンルをご存知でしょうか?
真っ暗闇のなか、重厚感たっぷりに存在する工場の夜景を被写体とした作品のことを「工場夜景」といいます。
無数のライトや煙突から出る煙をスローシャッターで幻想的に収めることで、まるでSF映画のような非日常的な作品を生み出すことができるのが工場夜景の魅力です。
近年では写真集も多数出版されており、ひとつのジャンルとして多くの人気を集めています。
この記事ではそんな工場夜景の撮り方や魅力について解説します。
工場夜景の撮り方
工場夜景を綺麗に撮影するにはいくつかの機材が必要です。
また、撮影の際には普段の夜景とは違うちょっとした注意点やポイントがあります。
それらについて解説していきましょう。
工場夜景の撮影に必要な機材
なんといってもまず機材が必要ですが、最低限必要なものは以下の3つです。
- カメラ
- 三脚
- 望遠ズームレンズ
カメラ
スマホでも工場夜景を撮ることはできますが、ドラマチックな工場夜景を取りたいのであれば、一眼レフやミラーレスなどのしっかりとしたカメラが必要です。
夜間の撮影においてはフルサイズなど高感度に強いカメラを使ったほうが美しく撮れますが、マニュアル撮影モードを搭載している一般的なデジカメであれば問題なく撮影できます。
「スマホしか持っていないけど工場夜景を撮ってみたい!」という人は、夜景アプリやスローシャッターに対応したアプリを使ってチャレンジしてみるのもいいかもしれません。
機材をもっていない人はレンタルサービスの利用もおすすめです。
望遠ズームレンズ
撮影場所にもよりますが、工場付近は立入禁止の場所も多く、被写体の近くまで寄れないこともあります。
そんな時に活躍してくれるのが望遠ズームレンズです。
工場夜景を遠くから美しく切り取るためには、フルサイズ換算で100mm~300mmほどの焦点距離があるとよいでしょう。
三脚
工場夜景はスローシャッターで撮影するので三脚は必須です。
サイズ・重量の大きい望遠ズームレンズを使用するので、なるべく大型で安定感のある三脚をおすすめします。
風が強い日だと撮影中にカメラがぶれやすいので、大型の三脚はこの点でも安心できますね。
工場夜景の撮影方法
工場夜景の基本的な手順は以下となります。
撮影はシャッター速度や絞りを自分で調節できるマニュアルモードで行いましょう。
シャッタースピードを遅くする
↓
絞りは F8.0から設定する
↓
ISO感度を適度に上げる
↓
ピントを合わせる
↓
シャッター時のブレに注意
↓
設定を変えて何回か撮影する
シャッタースピードを遅くする
工場夜景は暗い場所での撮影になるので、明るく撮影するには多くの光を取り込む必要があります。
そのため、シャッタースピードは遅めに設定しましょう。
シャッタースピードとは文字通りシャッターの速度のことで、シャッターを開く時間(秒数)を表しています。
被写体の明るさにもよりますが、工場夜景の撮影では5~15秒ほどに設定して撮影するのがよいでしょう。
その後、繰り返し撮影をして適切なシャッタースピードに調整してみてください。
F値(絞り)は F8.0から設定する
シャッタースピードの次はF値(絞り)を調整します。
F値(絞り)とは、「F2.8」「F22」などと表記されるもので、レンズの光を通す穴の大きさを表しています。
この値を調整することで、光の量とピントの合う範囲をコントロールできます。
F値を大きくすると画面全体にピントが合いやすくなりますが、その分暗くなります。
反対にF値を小さくすると絞りが開かれて明るくなり、ピントの合う範囲が狭くなります。
ポートレートなどで活躍する玉ボケはこの状態ですね。
工場夜景の撮影では、絞りをF8.0くらいに設定することで全体にピントが合ったシャープな写りになります。
ISO感度を適度に上げる
ISO感度とは、カメラが光をとらえる能力を数値化したものです。
ISO感度を上げることで光をとらえる力を電気的に増やし、写真を明るくしてくれます。
具体的にはISOを100から200にあげると画像の明るさが2倍になるということですね。
ISO感度は明るさを手軽にあげられるのでとても便利ですが、数値を上げるほど画像にノイズが発生しやすくなり、画質が悪くなってしまうので注意しましょう。
カメラの性能にもよりますが、工場夜景の撮影ではISO1600~くらいを目安に設定しましょう。
フルサイズなど高感度に強いカメラを持っている人は、ISOをさらにあげてもいいかもしれませんね。
画像の明るさはISO・F値・シャッター速度によって決まるので、この3つの関係を考えながら撮影するとよいでしょう。
ピントを合わせる
被写体がある程度明るい場合はオートフォーカスで問題ありませんが、場合によっては被写体が暗くてピントが合いにくいこともあるでしょう。
そんなときは液晶モニターを見ながらマニュアルフォーカスでピントを合わせる方法をおすすめします。
オートフォーカスの場合でも撮影後の写真を液晶モニターで拡大表示して、きちんとピントが合っているか確かめてみましょう。
軽く確認して「大丈夫だろう」と思っても、後から見返したらピントが少しずれていた…なんてことになりかねないので注意が必要です。
シャッター時のブレに注意
望遠レンズの撮影では僅かなブレも大きく響きますので、シャッターボタンを押す時の手ブレにも注意が必要です。
この手ブレについてはリモートレリーズやタイマーを使用することで防ぐことができます。
わずかなブレでも写真のイメージを大きく損ねてしまうことがあるので、この点にも注意したいですね。
設定を変えて何回か撮影する
これらを設定して撮影しても、1枚目から納得の行く写真を撮るのは難しいでしょう。
撮影した画像を見直して少しずつ設定を変えていくことで、作りたい画に近づけていく作業が必要となります。
画像が暗ければシャッター速度を更に遅くしてみたり、ノイズが多ければISOを下げてみたりと、何回か繰り返し撮影を行いましょう。
工場夜景ではじっくりと時間をかけながらの撮影となることも多いので、予備のバッテリーを用意しておくと安心です。
また設定だけでなく、ズームレンズで切り取る画角を色々と変えてみるのもおもしろいですね。
工場夜景を撮るときのポイント
撮影の手順について説明しましたが、その他にもいくつかポイントがあります。
- 日が落ちた状態で撮影する
- ズームレンズで切り取る場所にこだわる
- WB(ホワイトバランス)でイメージを変える
- 余裕があれば昼のうちにロケハンを
日が落ちた状態で撮影する
一般的な夜景撮影では、日が沈みきらない夕方が撮影におすすめと言われています。
マジックアワーとも呼ばれていますね。
工場を夕方の時間帯に撮影してももちろんきれいですが、夜の辺りが真っ暗になった状態もおすすめです。
暗闇に浮かび上がる工場の重厚なシルエットが、金属の無機質さを強調して、SF味のある作品にしてくれるでしょう。
ズームレンズで切り取る画角にこだわる
海沿いなどひらけた場所にあることも多い工場ですが、写真の中で空の割合が多くなりすぎないようにするのもポイントです。
工場部分のみを切り取って画面全体に写すことによって、非日常的な迫力のある写真になります。
切り取る画角によってイメージはガラリと変わるので、ときには思い切り近づいて撮ってみてもいいかもしれません。
WB(ホワイトバランス)でイメージを変える
撮影しながらWB(ホワイトバランス)でイメージを変えるのもおすすめです。
WB(ホワイトバランス)とは色味の補正をする機能のことで、寒色系のイメージを強くするなら電球モード、暖色系のイメージにしたいなら日陰モードなど、手軽に写真のイメージを変えられます。
夜景の撮影において大きく活躍してくれる機能なのでぜひ覚えておきましょう。
RAW現像なら撮影後にも設定できるので、こちらを活用するのもよいですね。
余裕があれば昼のうちにロケハンを
三脚を構えてじっくり撮影するとなると、撮影場所の確保は大事なポイントです。
夜に勝手のわからないところに行くと危険な場合もありますし、知らないうちに迷惑な行為をしてしまうかもしれません。
時間に余裕があれば昼間のうちにロケハンを済ませて、立ち入れる区域の確認や撮影場所のチェックをしておくとスムーズに撮影できるでしょう。
安全性を確認してから、余裕をもって撮影に望むようにしましょう。
作例
筆者が岡山県の「水島コンビナート」で撮影したサンプルを載せておきます。
1枚目は赤みを強めに、2枚目は青みを強めに現像してみました。
三脚を使用してスローシャッターで撮影することで、肉眼とはひと味違った景色が楽しめますね。
関西でおすすめの工場夜景スポット
設定やポイントがわかったところで実際に撮影に行ってみましょう!
関西にも多くの撮影スポットがあるので、おすすめの場所をいくつかご紹介します。
これ以外にも素敵な工場夜景が撮れるスポットは全国各地にあるので、気になった方は検索してみてください。
堺泉北臨海工業地帯(大阪府)
出典:工場夜景INFO
コスモ石油のプラントとオイルタンクが見渡せる築港新町の歩道や、正面に製油所のプラントが見渡せる高砂1丁目の歩道橋などが人気スポットのようです。
付近に駐車場がないところもあるので、車での訪問時は周囲の迷惑にならないよう停車場所には十分に注意しましょう。
このあたりでは工場夜景見学クルージングも行っているようなので、気になる方はそちらもぜひチェックしてみてください。
網干なぎさ公園(兵庫県)
出典:神戸観光壁紙写真集 KOBE Photo Gallery
姫路の工場夜景撮影スポットとして人気なのが網干なぎさ公園です。
公園には小高い丘があり、ダイセルを中心とした化学工場の夜景を見渡せます。
公園内にはいくつかの撮影スポットがあるので、広角から望遠までさまざまな撮影を楽しめるでしょう。
視界が広いので、のんびりと色々な方向の夜景を楽しんでみるのもよいですね。
関西熱化学(兵庫県)
出典:工場夜景INFO
兵庫県尼崎市の人気スポット「関西熱化学」は、オレンジ色の光が特徴のスポットです。
工場付近の歩道は少し高さがあるので、そこから工場夜景を撮影してみてください。
歩道には街灯もあるので明るく、工場夜景初心者でも安心して訪問することができます。
撮影する場所や向きによって景色が変わるので、お気に入りのスポットを探してみるのも良いかもしれませんね。
まとめ
工場夜景の撮り方や魅力、撮影する上でのポイントなどをご紹介しました。
この記事を読んで「工場夜景を撮りたい!」と思ってくださった方の参考になれば幸いです。
工場夜景の魅力は普段の写真とは一味違った、まるでSF映画のような幻想的な写真を撮影できることです。
工場だけを主題にするのもいいですが、工場を背景にしてポートレートや愛車の写真を撮ってみても面白いかもしれませんね。
夜しか見れない工場の素敵な姿を楽しんでみてください。