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世界の社会問題に目を向け、実際に現地に赴き現地の人々に耳を傾け、触れ合い、感じたことを写真を通して想いを伝え続ける「フォトジャーナリスト」という仕事があります。世界中で活躍するフォトジャーナリストの中の1人に、カンボジアの人々を撮り続ける「高橋智史(たかはしさとし)」さんというカメラマンがいます。

今回は、フォトジャーナリストの高橋さんにインタビューさせていただき、フォトジャーナリストというお仕事のことや、なぜカンボジアを撮り続けるのかなど、様々な想いを聞いてきました。

 

高橋 智史(たかはし さとし)
高橋 智史(たかはし さとし)フォトジャーナリスト
1981年 秋田県秋田市生まれ、日本大学芸術学部写真学科卒。
大学在学中の2003年からカンボジアを中心に東南アジアの社会問題の取材を開始。2007年4月からカンボジアの首都プノンペンに居を移し、同年から4年間、カンボジアの社会問題や生活、文化、歴史を取材し、秋田魁新報新聞連載「素顔のカンボジア」で発表。現在は、政府と開発業者による土地の強制収容問題の人権問題に焦点を当て、権力の横暴に命をかけて立ち向かう人々の切望を記録し、Cambodia Daily、CNBC、The Guardianなどの英字メディアを中心に報道写真を発表している。昨年でカンボジア取材通算15年目を迎え、最新の写真集「RESISTANCE カンボジア・屈せざる人々の願い」を刊行した。主な受賞歴に、2014年「第10回名取洋之助写真賞」、2016年「三木淳賞奨励賞」がある。

 

 

 ー世界の社会問題に興味を持ったきっかけは?

フォトジャーナリスト高橋 智史(たかはし さとし)

高橋:僕は小学生の頃から世界の社会問題に関心がありました。父は大学の図書館で働いていて、実家に山ほど本があり、その中にあった世界の社会問題や戦争について、小さい時から自然と読むようになっていました。

不条理な中で奪われていく命や、母を亡くしていく子供達はどれだけ苦しいだろうかという気持ちを、子供ながらに抱くことができて、いつしか「どうしてこんなことが起こらなければならないんだろう」「一見平和に思われるものの背景には何があるんだろう」と、疑問を抱えるようになっていました。そんな思いを抱きながら、高校生の頃には不都合な真実の中で社会的に弱い立場に追いやられている人々をサポートしたいと強く思っていました。高校を卒業すると、東京の専門学校で国際ボランティアの勉強を始めました。

NGOにインターンとしてお世話になり、最前線で活躍している人たちから戦争についての詳しい話や現状を学ばせていただいているうちに「自分自身はどうやってこの問題に関わっていけばいいんだろう」という問いにぶつかっていました。

 

 ー写真との出会いはいつ頃でしたか?

高橋:写真と出会うきっかけとなったのが、NGOと協力関係を築き、国際的な社会問題を取材されていた写真家の方々がNGOに提供してくださった写真をパネル化してNGOのイベントで展示をする際に、僕がそのパネルを使用して、現地の状況を説明させていただく機会を重ねていたんです。どれだけ僕が思いの丈を込めてその国の現状を伝えたとしても中々伝わらないような事実が、事実を切り取った写真が1枚あるだけで、距離が近くなったような気がするという経験を何度も繰り返していました。

そこで、自分自身の原点に立ち返ってみると、僕が世界の問題とその地に生きる人々に関心を持つことができたのは、小さい頃に読んでいた書籍や写真集を通して「知る」ことができたからだと改めて再認識しました。知らなければ行動を起こすこともできません。知らなければ関心を持ち、思いやりの心を持つこともできません。
僕は「知る」ことによって自分自身の心が動かされたのだから、世界の問題を、そして人々の届かぬ願いを写真を通して多くの人々へ伝え、無関心から関心へ、そして思いやりの心を抱く「きっかけ」を多くの人々へ与えたいと思い、その手段として「写真」を選びました。

20歳の時にロシアのウラジオストックへ行き、密猟者から絶滅寸前のアムールトラを守るために活動していたレンジャーに支援物資を届けるというボランティアをしていたのですが、初めて感じるような体験をたくさんし、やっぱり僕は届かぬ現状を世界に届けたいと改めて思うことができた。

その時の帰国便の中で、「何が何でも写真の力を信じて、何が何でもフォトジャーナリストになってこういう現場に帰ってくるんだ。」と決意しました。そうはいっても写真の技術が全くあるわけではないので、専門学校卒業後、一から写真について学ぼうと日本大学の写真学科に入学しました。入学した時点で自分のやりたいことは決まっていたので、あとはまっすぐ進むだけでした。

 

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 ーフォトジャーナリストとしての仕事をはじめたきっかけは?

高橋:写真学科在学中、世界の社会問題について発表するチャンスを求めて雑誌社や通信社の方に写真を見てもらったり、思いを伝えて掲載するチャンスを待っていました。大学3年生の時に、はじめて共同通信さんに記事を書かせてもらえて、ゴミ山に生きる子供たちについて発表させていただきました。その時、ずっと目標としていた夢の一つが初めてかなった瞬間でした。

1年間大学を休学して、アフガニスタンやカンボジアの取材をしていました。復学後、いろいろな経験を得て選択肢もたくさんありましたが、やっぱり自分自身を鍛えてくれた国はカンボジアしかないと思い、もっとカンボジアのことを知り、世界中に伝えたいという気持ちが増し「カンボジアに住もう」と決意しました。

その後、カンボジアで暮らし取材をしたいという願いを叶えるために、大学在学中に新聞や雑誌に掲載をしてもらった取材内容を一つのブックにまとめ、カンボジアへの熱意を書いた文章とともに、お世話になったメディアの方々へそのブックを送りました。その後、僕の故郷、秋田県の新聞社「秋田魁新報社」の方から連絡をいただき、熱意を全力で伝えました。そして、貴重な応援をいただき、カンボジアの現実を写真と文章で伝える「新聞連載」を組んでいただけることになりました。

2007年にカンボジアのプノンペンに拠点を移し、本格的にカンボジアでの取材を開始しました。新聞連載は約4年間行わせていただき連載終了後、2011年に起きた東日本大震災の取材に約半年間取り組みました。その後2012年に再びカンボジアに戻り、政権の横暴と対峙し続けてきた内戦後初の英字紙「カンボジア・デイリー」に約3年間、取材写真を掲載いただきました。

そして3年ほど前からアメリカの通信社である「Getty Images」と契約をし、Getty Imagesを通じてカンボジアの社会問題を発信させていただいています。そんな人生を送りながら、この15,6年、カンボジアで生きる人々の届かぬ願いを伝えたいという思いでやってきました。

 

ー取材中にどんなことを考えて、何を意識していますか?

フォトジャーナリスト高橋 智史(たかはし さとし)

高橋:写真というのは、僕自身と現場を繋ぐ大きなツールですので、何よりもそこで闘い続けて生きている人たちの願いを一番に考えて撮影しています。彼らの願いをどうやったら写真で切り取れるのか、心と心を近づけながら、彼らが命を懸けて闘う最前線へ行くことを心がけています。
彼らの立ち位置というのは、巨大権力の横暴との対立の構造です。それは決して最初から平等ではありません。僕は思いやりの心で、弱い立場に追いやられてしまっている彼らと同じ目線に立つことを最も大切にしています。

 

ーフォトジャーナリストになられて大変だったことは?

高橋:カンボジアでフォトジャーナリストとして生きることは僕自身が望んだことです。生きる上で大変なことは沢山ありますが、「志のもとに生きる」という決意を固めた上での道なので、困難はすべて自分の糧になっています。何より、その困難を上回るくらいの意義や喜び、応援をしてくださる方々への感謝の思いが自分の心を支えてくれています。カンボジアでの生活は、日本と概念も考え方もまったく違うので、それだけで一冊本が書けるくらいです(笑)価値観の違いの差を埋めていくのが、最初は一番大変でした。

 

ーフォトジャーナリストというお仕事についてどうお考えですか?

高橋:今まで話してきたことにも凝縮されているんですけれども、届かぬ人々の願いや叫び、そして想いを伝えられるとても意義のある仕事であり、ライフワークです。フォトジャーナリストという仕事は、自分自身の存在を確固たるものとさせてくれるものです。そして何より、小さい頃から思い描いていた「過酷な境遇に追いやられてしまっている国の人々に心を寄せていきたい」という僕の願いを叶えさせてくれるものがフォトジャーナリストとしての姿だと思います。届かぬ人々の願いを伝えられる、僕自身の人生に欠かせないものです。

 

ーフォトジャーナリストを目指す方がいたら、どんなアドバイスをしますか?

 高橋:フォトジャーナリストにとって大切なことは、「写真で何を伝えたいか」を確固たるものとすることだと思います。葛藤の中で自分自身の意志を信じ続け、自信がない時こそ自分を信じて前に進んでほしいと思います。信じ続けた先に見える景色は必ずあると思います。そして、少しでも多くの取材現場に足を運び、人々の声を姿を思いを直に目にし、彼らに心を寄せ、現場での学びや気づきを自分自身の心に直接取り込みながら思いやりをもってシャッターを切ってほしいと思います。

 

ーカンボジアの抱える社会問題についてどうお考えですか?

高橋:カンボジアの人々はポル・ポト政権の大虐殺や内戦などの苦しい時を経て、今に至っても33年間もの間、首相が変わらぬ実質的な独裁体制にあります。2013年に変革を求める最大野党が誕生し、総選挙で独裁政権と拮抗する状況まで肩を並べ変革の願いが高まったのですが、その希望も独裁政権の苛烈な市民社会への弾圧が行われ、2018年の総選挙で再びの一党独裁支配に戻ってしまいました。政権の横暴に異を唱える新聞社やメディアも政権によって潰され、人権活動家、野党政治家、ジャーナリストたちも次々に投獄されていきました。このカンボジアの現状を非常に残念に思います。当たり前の正義と民主を求め、権力の横暴と闘い続ける人々を5年間ずっと近くで見続けていたので、彼らの願いが一気に覆されてしまい、フン・セン政権による恐怖の支配構造で異を唱えることもできない社会になってしまいました。

 

ー高橋さんから見た日本(日本人)はどう映りますか?

高橋:カンボジアに赴くということは、世界を見るということにもつながり、日本を見つめることにもつながるわけですよね。日本の社会にもいい面はたくさんありますが、カンボジアに長く住み続けて思うことは、日本はあまりにも情報網が溢れすぎていて、それに頼るあまり直で接する機会が軽薄なってしまっています。カンボジアは人と人との関わりが親密で、町の人々がみんな互いのことを知っていて、お店でも作っている人の顔が見れたりするので、そういった部分ではいつも心があたたかくなります。

カンボジアでは毎日誰かに「ありがとう」と言葉にするので、一時帰国で日本に帰ってくると、お店に行ったりした時に、作ってくれた人の顔が見えないので、誰に「ありがとう」と言えばいいのかわからない場面が多くさみしく感じる時があります。なので、人間は根本的に心の繋がりがないといけないので、日本に対して寂しく感じることはありますね。現在は日本からも多くの大学生がカンボジアに来てくれているので、彼らは何かあたたかいものを求めているのかなと感じます。

 

ー写真集「RESISTANCE カンボジア 屈せざる人々の願い」に込められた想いとは?

写真集「RESISTANCE カンボジア 屈せざる人々の願い」

高橋:この写真集には、カンボジアで闘い続ける人々の思いと、僕の願いを全て込めています。そして、命を懸けて立ち上がった人々の証でもあります。2013年から2018年に至る壮絶な変革への想いの中で、一党独裁支配に戻ってしまったんですけれども、正義を求め、命をかけて権力の横暴に立ち向かう人々がいることを、なんとしてでも伝えたくて、これまでずっと温かい応援をいただいてきた秋田魁新報社さんから、この5年間撮影し続けた作品をまとめた写真集を発表させていただきました。

 

ーなぜ、この女性の写真を表紙に選んだのですか?

高橋:表紙の方はカンボジアの平和運動の象徴的な人物であるテップ・バニーさんという女性ですが、彼女は政権によって不当に1年間投獄されて、赤い囚人服を着た姿で拳を握って自分自身の子どもへの願いを叫んでいるシーンを収めた一枚になります。

二人の子どもがいて、「あなたたち強く生きなさい」「私は絶対に権力の横暴には屈しない」と叫んでいた、とても大切なワンシーンです。僕は以前から彼女を知っていました。彼女の願いは、声なき社会の声を代弁する切望の願いですので、写真集の表紙にしたいと決めていました。

 

 

ー高橋さんにとって”写真”とは?

フォトジャーナリスト高橋 智史(たかはしさとし)

高橋:僕にとって写真は、人々の届かぬ願いを伝えることができる最も大きなツールであり、僕と現場をつなぐツールでもあります。そして、今こうして写真展を開催したり、写真集を出すことができたのも「写真」があったからなので、本当に感謝しています。

 

ー今後もカンボジアでも活動は続けていきますか?

高橋:はい。これからもカンボジアの現場の最前線に立って、人々の届かぬ思いや叫び、願いをファインダーを通して見つめ、伝え続けていきたいと思っています。そしていつの日か、闘い続ける人々の願いがカンボジアにもたらされた時、僕は彼らが歓喜している瞬間を最前線で切り取り、伝えたい。それが今の一番の思いです。

昨年結婚したこともあり、カンボジアと日本を行き来する形となりますが、これからもカンボジアは大切なフィールドであり、たくさんの願いを託してくれているので、カンボジアで人々の歓喜溢れる瞬間を収めるためにも、ライフワークとして続けていきたいと思います。

 

高橋智史 写真展情報

写真展「RESISTANCE カンボジア 屈せざる人々の願い」 オリンパスギャラリー

高橋智史写真展「RESISTANCE カンボジア・屈せざる人々の願い」
期日:3月26日(火)~30日(土)
時間:10時~17時
ギャラリートーク:30日(土) 13時開始(予定)
場所:秋田魁新報社1階さきがけホール

 

 

 

 

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