‟自然と頭に残り続ける事柄から作品が生まれる” 芸術家 植松琢麿インタビュー
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現代アートを巡りながら六甲山の魅力を改めて発信しようと始まった現代美術の祭典「六甲ミーツアート」が9月13日から11月24日まで開催されています。

記念すべき10回目を迎える今年は、42組のアーティスト、グループが六甲の山上を舞台に様々な作品を展開しています。

今回は、その10周年のメインビジュアルを担当した美術家の植松琢麿(うえまつたくま)さんにお話を聞きました。

 

植松さん インタビュー

ー今回初めて六甲ミーツアートに伺いましたが、こんなに近くで自然とアートが一緒に楽しめるイベントがあるなんて知りませんでした。SHARE代表の小野から植松さんの芸術活動や考え方についてよくお聞きしていて、直接お話したいと思っていました!早速ですが、今回の出品作品のコンセプトについて教えていただけますか?

植松:TENRAN CAFEで「big horn sheep-palette」、六甲ガーデンテラスで「world treeⅡ」の合計2作品を展示しています。
いずれの作品も、創造の場を作りたいという思いから生まれた作品です。

最初に、「big horn sheep-palette」は、羊のフォルムをした彫刻の表面に固形の水彩絵の具がドット柄に配され、実際に鑑賞者が使用できる絵の具のパレットになっており、思考の流れを生み出す装置になっています。

この作品は、精神と身体のようなソフトとハードの関係を、人の思考と空間で作ることができないかという試みから生まれました。鑑賞者は、この展示空間で何かを思い、想像したことや言葉を描きます。

当初、その行為が行われている間、そこに存在する人々の思考の流れを見えない彫刻として提示したいと考えてました。さらに、鑑賞者の描いたものが次の鑑賞者の思考に影響しながら、次のイメージが生まれ連鎖していくような状況が、どこへ到達するのかという興味もありました。

同シリーズの作品「earth-palette」の展示を、ドイツと東京で発表したのですが、いつも僕の想像を超える結果になり、人がもつエネルギー、熱を感じます。
一方、六甲ガーデンテラスは、とても眺望の良いロケーションで、普段から多くの観光客が訪れる場所です。

そんな場に大きな木を作り、訪れた人が木の下で、自然と街を臨む景色を見ながら思索するような時間が生まれたらいいなと思いました。

「world treeⅡ」は、これまで制作してきた自分の作品の断片を組み合わせ、構成しています。

 

ー作品を見せるだけでなく鑑賞者が想像や言葉を足していくという発想が素敵ですね。作品が3m50近くありますが、制作期間はどれくらいですか?

植松:構想を含めて、1年くらいです。

 

植松さん 作品

©courtesy of Yumiko Chiba Associates

ー今回の作品であれば創造の場を作りたいという思いから鑑賞者も参加できる作品を出品したことが植松さんのアイデアの一つだと思いますが、いつもアイデアはどこから生まれるんですか?

植松:日常的に自分をできるだけニュートラルな状態にして、先入観なしに、様々なことを感じたいと思っています。そうすると、これまで自分が決めつけていたモノのあり方が変わり、本来の意味から解放されたモノたちが、新たな関係を見せてくれます。そんな日常の中で、自然と頭に残り続ける事柄から作品が生まれます。

 

ー作品制作をするとき展示場所のロケーションなど意識していますか?今回の展示場所と作品の関係性などがあれば教えていただきたいです。

植松:近年、特に彫刻を作るということは、その場を作ることだと考えています。ですから、彫刻が、鑑賞者も含め、その場にどのように作用するかは、常にシミュレーションしています。

 

植松さん インタビュー

ー幼少期から芸術に関わりがあった植松さんですが、今も芸術活動を続ける理由はなんですか。

植松:アーティストという生き方をしていると言ったら分かりやすいでしょうか。続けているという意識はないかもしれません。しいて言うならば、答えのない科学の実験と結果の繰り返しのような感じでしょうか。

 

ー近年、デジタル社会が進んでいく中でSNSだけでも自分を表現する、発信する人が沢山いますが植松さんにとって表現者とはなんだと思いますか。

植松:とりわけ美術の中での表現は、新たな気づきや視点を有む行為だと思っています。見慣れたものを見慣れないものにする。個人的には彫刻にしかない力を信じていますが、それは、メディアが何であろうと、重要ではないかもしれません。

SNSの質問は、個人的にはとても面白いです。SNSだけで自分を表現する人というくくりでSNSを見たことがありませんでした。僕にとってはSNSは2次的なツールで、イメージがゆえに信頼性がどこまであるか測り知れない。情報になった時点で過去のものですし、SNSで見たことが新しいのか古いのかという判断すら難しい。信頼性においては、グーグルの人工知能が生み出す画像に関して、本物か偽物かの判断はもうできないですし、すでにその2項の区別は重要でないのかもしれないですね。そうなると、インターネットで流れるイメージ、情報が有する意味がどのように変化していくのかは、興味深い問題のひとつです。そして、ネット接続していない「世界の残り半分」のことは忘れてはいけません。

 

植松さん 作品

©courtesy of Yumiko Chiba Associates

ーそんな植松さんに影響を与えた人はいますか。

植松:ふりかえると、学生のころ訪れた、ハロルド・ゼーマンが企画した第49回のベニスビエンナーレは、自分のクリエーションに大きく影響を与えたと思います。六甲ミーツアートと時期が重なって開催されている神戸の「trance」の出品作家でもあるグレゴールシュナイダーをはじめ、ロンミュエクの「boy」、マウリツィオ・カテランの「The Ninth Hour」、クリスカニンガムの映像作品など刺激的な作品が多く、当時、興奮したのを覚えています。

 

植松さん インタビュー

ー出版社をやめて芸術家になってからのライフスタイルはどうですか?

植松:出版社を退社してからは、制作をしながら、豊中にある宝島造形で働かせてもらったり、写真やライターの仕事をしたり、今では大学の非常勤をさせてもらったり、その時々の状況のもと、生きるためのほどよいバランスを保ちながら過ごしています。テレビのチャンネルのように、個人の中にも、たくさんの要素があり、自分にとって大切なものを抱え生きる姿勢が、結果、ライフスタイルにつながってる感じでしょうか。
年齢や環境で変わって行くこともあると思いますし、美術活動だけでも、展覧会以外に、フェア、レジデンス、コミッションワークと、関わり方は多様です。

 

ー植松さんにとって人との出会いはどんな価値があると思いますか?

植松:マクロな視点でものごとを見たとき、例えば、社会を大きな生き物だととらえたら、人はその細胞みたいなもの。ということは、ほかの人との関係性は必然です。価値があるないという話ではない気がします。時間とともに、関係性がどのように生まれ、消えていくかは、いつも考えています。その点においては、人と人の気の流れが干渉するという場所、その見えない世界に確信を持って挑んだ荒川修作さんの思考世界は、とても興味深いです。

 

植松さん 作品

©courtesy of Yumiko Chiba Associates

ー海外と日本のアート業界の違いについて教えてください。

植松:海外といっても、世界は広い(笑)。ひと昔前だったら海外と言えば欧米だったかもしれませんが、今は富裕国に関してはそれぞれに固有の状況を有しながらも、同じフィールドにコミットしやすい状況になってると思います。
去年、今年はファッションブランドとのコラボレーションや、アートフェアで香港へ行きました。第1回目のアートバーゼル香港でキュレターの長谷川祐子さんにエンカウンターセクションに選んでいただき、シャンデリアのインスタレーションを展示したのですが、その際、鑑賞者としても勉強にいく気持ちで出来るだけたくさんの作品を見てきました。当時、その数と人の多さに圧倒されたのは記憶に新しいですが、今年は、さらに過去最高の来場者数8万8000人を記録とのことで、会場の活気も増してる印象でした。言うまでもなく、日本とは規模が違います。

 

ー芸術界で時代とともに変化したと感じることはありますか。

植松:芸術は、まさに時代を映す鏡なので、日々変化していると感じます。日本においては、とくに3.11以降、ポリティカルな映像作品が増えましたし、近年は芸術祭で地域の歴史を掘り起こすリサーチ系の作品も多くなりました。その中でaiのようなテクノロジーの進化とともに生まれる表現も多い。この多様化が一気に増大している様子は、まさにカンブリア紀に似ていると思います。スクリーンへの一極集中も、AR、VR、MRなどへ、今後拡大するのも明らかですし、想像ができなかったことが生まれてくることは楽しみです。

 

ー植松さんが挑戦してみたいことはなんですか?

植松:これまで美術をを通して見てきた世界を一冊の本にまとめたいと思っています。
「○○○sphere」「ghost」「singularity」など、2000年以降、世界中でさまざまな作家がタイトルにつけるようなキーワードがありました。これらについても、もう一度考えてみたいです。

 

ー今後のビジョンについて教えてください

植松:今後も、いまと同じ姿勢で過ごせるよう、ゆっくり進んで行きたいと思います。

 

イベントタイトル 六甲ミーツ・アート芸術散歩2019
植松琢麿 展示場所 「big horn sheep-palette」:TENRAN CAFE

「world treeⅡ」:六甲ガーデンテラス

開催期間 2019年9月13日(金)~11月24日(日) ※会期中無休
開催時間 10:00~17:00
公式ホームページ https://www.rokkosan.com/art2019/

 

 

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