日本を代表する女性写真家インベカヲリ★さんの、62人の女性とのポートレートをおさめた写真集「理想の猫じゃない」が、2018年11月17日赤々舎より発売されました。
今回は、関西写真部SHAREの小野友暉を聞き手に、写真集に込めた思いや、他では聞くことのできないインベカヲリ★さんの考え方や人生についてインタビューしていきます。
インタビュアー=小野友暉 ゲスト=インベカヲリ★ 文章=かんばらふうこ
1980年、東京都生まれ。写真家。ノンフィクションライター。第43回伊奈信男賞受賞。写真集に『やっぱ月帰るわ、私。』『理想の猫じゃない』『ふあふあの隙間』①②③(以上、赤々舎)。共著に『ノーモア立川明日香』(三空出版)、忌部カヲリ名義の著書に『のらねこ風俗嬢―なぜ彼女は旅して全国の風俗店で働くのか?―』(新潮社電子書籍)など。
インベカヲリ★ポートフォリオ
「理想の猫じゃない」は決してネガティブな世界ではない
出典:AKAAKA
一緒に見るものという認識ではなく、見る順番によって感じ方が変わるように試行錯誤しながら制作しました。
私の作品制作では、どれだけその人自身の言葉を聞けるか、人生のリアリティに心を揺らされて撮影しているので、独特な作品になってるんじゃないかと思います。
「普通からはみ出すことは良くないから戻しましょう」という社会の中で、私自身小さい頃から窮屈に生きてきました。
自分が本当に思ってること、というのは世間ではあまり必要とされていない。だから話す習慣もない。でもそこを掘り下げて聞いていくと、一人ひとりはものすごく多様で、頭の中でそれぞれ違うことを考えている。作品を見ている人に『そうした世界の方が楽しそうだな』と思ってもらいたいです。私は彼女たちが話す内容に対してネガティブな感情は全然なくって、むしろ「なんて面白いんだ」と思って撮っているので、写真を見た人にもその感覚が伝わってほしい。だから、写真集も明るくポップなイメージでデザインしてもらいました。
小説を見るように被写体と向き合う
小説の主人公であれば、どれだけ人生に波があっても、ストーリー的には魅力的じゃないですか。
辛い経験をしたとしても、そこから何を学んだのか、どう次に進むのかといった抑揚を求められるので、被写体と話をするときも、何が起きて、頭の中で何を考えたのかということをひたすら探っていきます。人間の初期設定は、必ず人と人とがすれ違うように出来ているので、どれだけ他の人と違うことを考えて、ストーリーのある人生を送っているのかが重要なんじゃないかと私は思います。
一見するとごく普通に見える人でも、一人一人深く話を聞けばそれぞれ価値観が違って、聞いたこともないような台詞がポンと出てきたりする。
写真を撮る上でも、内面的な部分を写すという行為は女性の方が相性が良いと思いますし、やっぱり話を聞いていて面白さを感じるのは女性だからです。人に話しているうちに自分自身を理解できたり、話すことで頭の中が整理できたり、聞いてもらうことで前に進めるのが女性の性質だと思います。
作品にはモデルの過去が閉じ込められている
なので例えば自分が本心だと思って話していることでも、他の誰かの影響から出てくる言葉だったり、他の人の言葉をそのまま口にしているだけだったりすると、なかなかその人自身が見えてこないこともある。
そういうときに無理矢理撮ってみても、何も写らないんですね。
ハッキリと言葉にできなくても、何かを伝えたいというエネルギーがある女性のほうが、私もイメージが沸きますし、その人じゃないと写らない力強い作品が撮れます。
今まで経験してきたことを作品に落とし込んで、いったん過去にすることで、ひとつの区切りになったとか、一歩距離をとって自分を見れるようになったという方もいますし、作品は一人歩きをしていくものなので、展示や写真集を見てくれた人の感想を伝えることで、「今までの自分の人生は無駄じゃなかったんだと思えた」と言ってくれる方もいます。作品が評価されることで自信になってくれるのは嬉しいです。
はじまりは写真ではなく「文章」だった
最初は写真じゃなくて、編集プロダクションで文章を書いていたりしていましたが、20代のうちは文章、写真、映像と同時並行でやっていましたね。どんな仕事をしていても、写真だけは作品撮りを続けていて。
いろいろな仕事もしてきたけど、その中でも写真と文章が残ったので今も続けています。
そういった意味では全く違う2つの表現方法なので、文章を書くときは頭を切り替えて、別物として表現しています。
そういう時って、自分に何が足りないのかいくら考えても分からないんですよね。なので、苦労というよりも、何をしてもうまくいかない時期が長かったという感じですね。
人からの評価がついてくると、自分の意識が変わりますね。客観的な評価がないと、自分のやっていることに確信を持っていたとしても、それが正しいのか全部間違っているのか分からなくなってくるんですよ。
私の写真の一番のファンは他の誰でもなく「私」
技術とか美しさとかではなくて、見た人にひらめきを与えるもの。「こんな世界もアリなんだ」って、新しい扉を開けて前に進めることが作品の役割だと思っているので、私自身もそうしたものをつくっていきたいです。
私の写真を一番評価しているのも私だから、人の批評は8割くらい意味がないと思ってます。経験値が高くて立場のある人の言うことだから、自分にとっても正しいとは限らないですよね。人のアドバイスを全て聞き入れていると自分が潰されていくので、いかに「聞かない」ようにするかも大事なことだと思います。
本当に必要な言葉は、何の抵抗もなくスッと心に入ってくるので分かるんですよ。
軸は写真に置いているけど、写真に関わらず、仕事を通してどれだけ人の心を動かせるか、大きいことを言えば「文化」とか「時代」を自分が思うほうに動かしていきたい。作品を通して、私自身が住みやすい世界をつくっていきたいという気持ちはあります。
女性写真家を目指す人へ
女性は気持ちの変動が激しいから、無理やり決断とか決意とかしようとせず、その時の気持ちに合わせて泳いでいくほうが良いんじゃないかと思います。振り返ったら全部が繋がっていたというのはよくあることなので。
自分が向いてることをやるのも大事だと思います。「できないからこそ、できるようにならなきゃ」と思って、気質に合ってないことを一生懸命頑張ってる人ってけっこういると思うんですけど、無理矢理な道を進むと、なぜか人間関係のトラブルが起きたり、邪魔が入ったりして上手くいかないんですよ。気質にあったことをしているとスムーズに物事が進むので、それを探すのが一番の近道だと思います。
「写真家になる」っていう決意をしたこともなくて、ただ淡々と続けていたことがこうして形になっています。ハッキリとしたゴールを決めてしまうと、そこから抜け出せなくなって、自分で自分を狭めてしまうこともあるので、決断とか決意はそこまで重要ではないんじゃないかと思っています。
写真展「ふあふあの隙間」開催中
タイトル | インベカヲリ★ 写真展ふあふあの隙間 |
開催期間 | 2018年12月20日(木) 〜 2019年1月 9日(水) 日曜休館、12月30日(日)~1月4日(金)休館 |
ギャラリー |
Nikon THE GALLERY 大阪 |
住所 | 大阪市北区梅田2-2-2 ヒルトンプラザウエスト・オフィスタワー13階 |
1月5日(土)15:00-
ニコンプラザ大阪セミナールーム(申込不要・参加費無料)