
人や自然、地球に存在する生命を写真で切り取り、その感触を見る人に伝える女性写真家 土田若菜(つちだわかな)さん。
彼女の撮る写真には強い生命力と被写体である子供が生きる未来を想像させる力があり、何十枚もの写真を順に見ることで土田若菜さんという一人の女性の人生から、生きるパワーをもらえたような気持ちで満たされます。
そこで今回は、ニコンサロンにて写真展「瞬のおと」を開催中の土田若菜さんに、写真展に込めた思いやカメラをはじめたきっかけについてインタビューしました。

2015年 第5回 東松照明写真のつくり方。受講
2016年 第6回 東松照明写真のつくり方。受講
2017年 沖縄写真デザイン工芸学校卒業
2017年 自主ギャラリー『Foto Space Reago』を設立、企画、運営に携わる。
写真展「瞬のおと(まばたきのおと)」 について
ー今回、ニコンサロンで展示をしようと思った理由は?
「瞬のおと」は2017年から展示しているシリーズで、今回はこれまでに展示した作品の中から抜粋し、構成し直した写真と新たに撮ったものを合わせて展示しました。
実は、1回目や2回目の展示では、自分が何を表現したいのか言葉で表すことができなかったんです。
だけど、昨年行った展覧会のときに、ふと断片的な言葉がいくつか自分の中から湧いてきて、「きっと今なのかな」って思って、多くの人に見ていただけるニコンサロンを選びました。
ー土田さんの撮影はどういったスタイルで行われていますか?
私の作品制作の仕方は、テーマを決めて写真を撮っているわけじゃなくて、撮影をすること自体が日常化しているので、気になったもの、目に留まったもの、そんなものをとりあえず何でも撮っておくというスタイルです。撮りたいと思わなければ一切撮りません。
きっと、私が反応してシャッターを押すという指を動かす力が働いて撮ったものだから、そこには何かあるんじゃないかって後から探っていくんですよね。私の内側にあるものを出していく、それが表現なのかなって思っています。
ー写真展「瞬のおと」はどれくらいの期間で撮影したんですか?
その日のコンディションによって、撮る、撮らないはあるんですけど、常にカメラは持っていますね。スーパーに買い物に行くときにも首にぶら下げていたり、車に乗っているときにも膝元に置いていますね。
「あっ」て思ったときにすぐに撮れる状態にしています。
ー展示されている作品はすべてモノクロですが、モノクロ写真の魅力は何ですか?
単純に、写真や映画もモノクロが好きだったからです。
何故モノクロが好きなのかを自分自身で考えてみたときに、1枚の写真から想像を膨らませ広がる世界を楽しんだり物語を作れたりするからなのかなって。
私の写真を含めて写真って、見た人が自由にいろいろな解釈をして欲しいと思っています。答えがあるものでもないと思っているので、こう見て貰わないと困るというような作品にはしたくないです。そういったところからモノクロ写真が好きになったんじゃないかなと思います。
あとは、色があるとどうしても目が色に反応してしまうんですけど、モノクロだと光や被写体の質感だったり、起こっている出来事に重視できるので、それが大切なんじゃないかなと思っています。
写真の‟原点”というか、写っている事柄を大切にしています。
ーモノクロ写真や映画が好きとおしゃっていましたが、特に影響を受けた作品はありますか?
声やセリフがないのに自分の中で聞こえてくるんですよね。
作り出せるっていうか、そういうのが好きで。自分の中で生み出せるものに自然と魅力を感じているのかなと思います。
展示作品は“感性”と“五感”を重視して選ぶ
ー展示する写真を選ぶときにこだわっていることはありますか?
とりあえず撮影したものをしばらく溜めておいて、あとからそれを見返した時にひっかかるものを選んでいくんです。
なんとなく気になるとか、理由はなんでもいいんですけど、まず全部小さくプリントします。選んでいるときもそうなんですけど、実際に撮影しているときにも、なぜそれを写すのか分かってないんですよ。意味より感覚を重視して選びます。
その後2Lサイズくらいのプリントをして、気になるものを少しずつ大きくプリントすると見えてくるものが、たくさんあるんですよね。そうやって選んで落としてを繰り返して強い写真を最終的に残していきます。今回の展示に関しても現場で並べ替えてライトを当てて全体を見た時には自分でも「こんな風になったんだ!」って思いました。生まれたというか、撮っている最中は何ができるか全く分からない状態なんですけど、最終的には「私の中からこんなものが生まれたんだ」って気持ちになりました。
ーこれまで何回か展示していると思うんですけど、ニコンでの展示で得られたことはありますか?
銀座のニコンサロンで1400人くらい来場していただいたんですけど、やっぱり圧倒的に見てくださる方の人数が違うので、多くの方の目に触れるところが今までとは違うなと感じた部分ですね。
それから、来場してくださる方も沢山の写真作品の展示を見ている方が多いので、見る力っていうのを感じました。来場者に言われて影響を受けたのが、「五感に訴える力がありますね」「皮膚感覚だよね。膜のように薄い、表皮の感覚を持っている写真だよね。」って言われたことなんですよね。
私自身そういう眼に見えない部分を大事にしているので、私の作品を見てくださった方が、ゾワゾワするような、音や匂い、気配を感じるような体感をしてほしいなと思って一生懸命つくっているので、来場者に言われた言葉で改めて気づけることもありました。
カメラは胸の内側を表現する道具
ー土田さんがカメラを始めたきっかけを教えてください。
私の場合、ハッキリといつから始めたっていうのがなくて。
父が趣味で写真をしていたので、幼い頃からカメラとの距離が近かったんですよね。昔は作品という意識よりも、記録写真を撮って個人的なアルバムを作ったりしていました。
本格的に自分の作品を作ろう、展示してみようって思い始めたのは沖縄に移住してからです。
ーカメラ歴が長いんですね!写真以外の表現方法としてイラストとか文章はしなかったんですか?
私の写真は心象的な要素が強いので、私の胸の内側にある自分でもよく分からないものをイラストや文章で表現することができたなら…と思うこともあります。
もし、私が歌を歌えれば音楽、絵を描ければイラストで表現するっていう選択肢もあったんだろうけど…。何か内側にあるものを外に出したい、吐き出したいっていう強い気持ちはあるんですけど、昔はそういったものを表現するのがすごく苦手でした。
写真も奥が深くて、写っている事柄には必ずそこに現実があります。だからこそ力を持つのだと思うし、そこから想像力を使い写真が自由に語り出すような、現実を飛び越えていけるような作品をつくりたいです。その為に撮っては自分の心の奥深い所と向き合って隠れているものを探してっていう作業を、今も繰り返しています。
ー土田さんが考えるカメラの魅力とは?
今は「ライカMモノクローム」を愛用しています。一眼レフやミラーレス使ってみたり、マクロレンズで花や水ばかり撮ってる時期もあったんですけど、あるとき恩師からライカのフィルムカメラを借りたことで私の中で変化がありました。
ライカって約1mぐらい離れないと焦点が合わないんですね。
それって、マクロ撮影をしていた私からすると結構引いて撮らないといけないので、ライカによって今まで見えなかったものが視界に入ってくるようになって世界が広がりました。
あとは、ライカってフレーミングが大体しか表示されないので、自分でも入っていると思っていなかったような景色が写っていたり、マニュアルなのでピントが合っていなかったり、じゃじゃ馬というか難しいカメラなんですけど、そこを楽しんでいます。
職人が手作業で手作りしているレンズの写し出す描写力には驚きますし、魅力的ですね。
子供は私が見ることのないであろう「未来を見る目」を持っている
ーお子さんの写真も展示されていますが、撮影しているときはどんな感覚ですか?
だけど、作品として見るときは、自分から距離を置いて子供をみています。
ー自分の写真を見たお子さんの反応はどうですか?
自分だと思って見ていないんじゃないかな。
セレクトは自宅でしているので「こっちの方がいいよ、面白みがある」とか言ってアドバイスをくれます。
日常的に撮っているので「またやってるな」くらいに思っているようです。
ー家族もアドバイスをくれたりするんですね!
そういうことを家族はズバズバ言ってくれるので、すごく感謝しています。
ー被写体として、子供に感じる魅力はありますか?
ありますね。我が子以外にも私の作品には時々通りですれ違った子供の写真が何枚か含まれています。私の記憶のイメージというか懐かしさを感じるものであったりしますね。
大きいサイズで展示しているのは私の中で「軸」になっているものです。
今回の写真展は生命力をテーマにした作品を選んでいて、子供や自然、私自身が生きる力をもらっているものが中心になっています。
私が見ることのないであろう「未来を見る目」を持っている子供に対する憧れだったりもあるんですかね。この子供達の未来が平和で幸せであって欲しいと思います。私自身、写真に生命力をもらいながら生きています。
心象写真を撮ることで理不尽なことも許せる
ーいろいろな写真のジャンルがある中で、心象写真を選ぶ理由は?
自分探しというか、自分の中でもわかっていなかったものを表に出していく作業をすることで答えが見つかるような、心象写真を撮ることによって理不尽なことを許せるような気がするんですよ。
私の中にある何かドロドロしたようなものを写真で表現することで克服できている感覚もあって。まだまだ全てじゃないけど、モヤモヤするものを克服するためにこれからも写真を続けていくんだろうと思います。
ー土田さんの気持ちや考え方によって撮る写真も変わりますか?
変わりますね。写真は人生だと思っています。一番最初にカフェギャラリーで個展をしたときは「Poison(毒)」っていうタイトルで展示したんですけど、自分の中で毒々しいものばかり選んで、その時は毒っぽさを出したくて仕方なかったんですよね。今回の写真展では、これまで何度も写真展を見てくれている人に「毒っぽさがなくなったね」って言われました。だから、写真を通じて自分が撮る写真も変わっていくのが分かりましたね。私は幼少期からずっと「死」が怖かったんです。複雑な環境の中で育って死に対する恐怖が強かったので、今回の展示ではそれとは反対の「生」というのを表現しました。
ー死への恐怖…、それは今もずっと続いているんですか?
すごくありますね。そういことばっかり考えてしまうときがあったり、ただ呼吸しているだけ、生きているのか死んでいるのかっていう感覚もなかった時期が長くありました。
でもあるとき、水中に潜った瞬間の一息の泡の美しさに衝撃を受けて、自分の身体に申し訳なかったなって。人は簡単に「死にたい」とか「死ね」とか口にしてしまうのを耳にするけれど、その言葉を口にしている瞬間にも呼吸をしていて、この一息がどれだけすごいのかっていうのを実感しました。死ぬことって普遍的なことだけど、生きることも普遍じゃないといけないなって思いました。
写真はとにかく続けることが大切
ー土田さんのこれからのビジョンはなんですか?
沖縄は社会的、政治的な問題をテーマにした作品も多く考えさせられています。私の場合は庶民の何気ない日常の位置から見た沖縄なので、そういった視点から沖縄を見つめてもらうのも一つの意味があるのかなと感じます。
苦しまずに続けることが一番大切だと思います。労は当然ありますが、その全てを含めて楽しめればと思います。写真を撮ることと発表することは全く別のことだと思うので、こうやって作品がまとまったときには、また展示したいなと思います。
そして私が今はもういない方の作品に心を動かされたのと同じように、私の撮った写真を、いつか未来を生きる人が目にして何か感じてもらえるような作品を生み出せればと思っています。
ー関西写真部SHARE読者へメッセージをお願いします。
とにかく撮ることを続けていくことが大切だと思います。
「撮れない」って言葉をよく聞くんですけど、撮りたくないときには撮らなければいいんじゃないかな。義務になってしまうと私は面白くなくなってしまうと思うので、撮りたいと思ったときに自由に撮ったらいいと思います。あと写真はプリントをしてこそだと思うので撮って終わりではなく、その先にあるプリントに自分のイメージや想いを込めて作品に仕上げていく作業を是非、自らで行なって欲しいと思います。
さいごに
生命に対する強い気持ちと、自分自身の人生を写真を通じて発信する女性写真家 土田若菜さん。
写真展「瞬のおと」では、土田若菜さんが約4年間にわたり撮影し続けた作品が数多く展示されています。みなさんもぜひ、土田若菜さんの写真展で生命の感触を体感してみてください。
【写真展情報】
タイトル | 土田 若菜 写真展瞬のおと(まばたきのおと) |
開催期間 | 2019年4月25日(木) 〜 2019年5月 8日(水) 休館:4/28(日)、5/3(金)、5/4(土)、5/5(日)、5/6(月) |
時間 | 10:30~18:30(最終日は15:00まで) |
場所 | 〒530-0001 大阪府大阪市北区梅田2丁目2−2−2 ヒルトンプラザウエスト・オフィスタワー 13階 |
URL | https://www.nikon-image.com/activity/exhibition/salon/events/201706/20190403.html |