写真新世紀2013グランプリ 写真家 鈴木育郎の特別展「終夏」インタビュー

 

鳶職で全国を回りながら自身の日常を写真で切り取り、2013年にはキャノン写真新世紀でグランプリを受賞した写真家 鈴木育郎さんが特別展「終夏」を大阪本町にあるHIJU GALLERYで開催します。

九州から北海道まで、約1年半かけて撮影した新作の展示に加え新旧の自主製作本の販売も行います。

今回はHIJU GALLERYにお伺いし、特別展の搬入作業を終えたばかりの鈴木さんにインタビューさせていただきました。鈴木さんと写真の関係性について、自身の手で写真集を制作する理由についてお聞きしました。

写真家 鈴木育郎 (すずきいくろう)
鈴木育郎 1985年、静岡県浜松市生まれ。
2010年、舞踏家 吉本大輔氏のポーランドツアーに同行。帰国後東京に移る。
2013年、「鳶・CONSTREQUIEM」でキヤノン写真新世紀グランプリ受賞 。個展に、2012年「月夜」マチュカバー。2013年「月の砂丘」蒼穹舎。2014年「月夜」nuisance galerie 、「写真新世紀」東京展2013「最果-Taste of Dragon」(東京都写真美術館地下1階展示室)著書に「解業」(2015年、赤々舎)、「月夜」(2018年、日版アイピーエス)があるほか、小部数ながら自費出版による写真集多数。
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一人の人間としての成長を写真に残す

鈴木育郎 インタビュー

ー特別展「終夏」のテーマについて教えてください。

鈴木:テーマは‟日常”。日々ゆっくり成長していっているなというのを日記のように写真に残しています。確信もないし、完成もないし、その時いいなと思ったものを撮りました。

 

ー鈴木さんの写真には、鈴木さんの人生そのものが出ているんですね。

鈴木:いろいろ経験すると涙もろくなるというか。人生を歩むっていうことは、それだけ人の痛みとか分かるようになって、人を愛せるようになるってこと。人としての成長がそのまま写真に出ると思うし、むしろそれしかないと思うんですよ。

コンセプチュアルなことというよりも、一人の人間として成長していくっていう。スタイル的にいうと俺の作品はストレートな写真なんですよね。古臭いというか。人がどれだけ成長しているかを写真で表すには、写真の画角とか面白いテーマとかじゃなくてストレートに写真撮ってたら出ると思うんですよ。

写真が評価されないっていうことはその人の想いが伝わっていないということなので、写真の技術やテクニックだけじゃなくて写真にどんな思いを込めるかってことも大切なんじゃないですか。

 

鈴木育郎 インタビュー

ー今回展示している写真はどれくらいの期間をかけて撮影したんですか?

鈴木:昔撮影したものも展示していますが、展示している写真は基本的に1年半くらいです。

 

ー久しぶりの展示とのことですが、今の心境は?

鈴木:自分が確実に成長しているのが分かりますね。

 

ー特別展「終夏」でカラーとモノクロどちらも展示した理由はあるんですか?

鈴木:月夜という写真集で頭書きしてくれた作家の岸政彦さんという方がトークショーにも来てくれるので、カラーとモノクロで分けた方が話が広がって面白くなるんじゃないかなと思いました。それに、HIJU GALLERYは2部屋あるのでカラーだけ展示するよりもモノクロと分けた方がメリハリがあるんじゃないかって。

 

写真集を制作することで過去を消化できる

鈴木育郎 インタビュー

ー鈴木さんといえば自主制作(手製本)の写真集を多く作られている印象ですが、鈴木さんにとって写真集とは?

鈴木:写真集を作ることで過去の出来事を消化していきたいんですよね。消化するために自主製作でたくさん作っているんですよ。

 

ーネットサービスで制作したことは?

鈴木:ないですね。8年前から自主制作をしていますが、見開きにする写真を選んだり、写真を見ながら順番を考えるのって手差しでやっていかないとできないんですよ。

写真をコピーするまで写真集の構成は考えていなくて、コピーした写真を見ながら順番を考えて、また表裏コピーしてって繰り返していくので、パソコンの画面で組むより現物で作っていく方がいいんですよね。

 

ー展示が始まるギリギリまで写真集を作られていたんですよね。

鈴木:3~4日間で17冊作りました。展示はもちろんなんですけど、俺自身は写真集を見てほしくて。まともに全部見ようと思ったら1時間くらいかかるようにしたいなと思って写真集もたくさん展示しています。

 

鈴木育郎 インタビュー

鈴木:写真集でしか生まれない感情ってあるじゃないですか。1枚の持つ力もあると思うんですけど、そうじゃないのが写真集になるので。

写真集の中には俺の母が餃子を作る一連の流れや好きな映画のワンシーンをフィルム1本分撮影しただけものもあります。フィルム1本分を全部写真集に入れるって写真集だからこそできるというか、1枚じゃ伝わらないし表現しきれないと思うんですよ。

 

ー展示での写真の見せ方と写真集では大きく違いますよね。

鈴木:写真展ってなると人をギャラリーに呼ばないといけないでしょ。それよりも写真集を見せる方がフットワーク軽いじゃないですか。

写真集はバッグの中に入れておけば自己紹介ができるわけだし。展示ってなると作品を見てもらうためにわざわざ人をギャラリーに呼ばないといけなくなるし、そもそも呼ばないと見てくれないわけですよね。

だったらバッグの中に入れておいて、見て欲しい人にすぐ作品を見せられる状態にしておく方が効率的だと思います。

 

写真新世紀グランプリで“価値観”が変わった

鈴木育郎 インタビュー

ー2013年のキャノン写真新世紀でグランプリを受賞して変化はありましたか?

鈴木:写真新世紀のグランプリをとるまでは自己顕示欲がすごくあったんですよ。「俺の写真はもっと認められるべきだ」みたいな。

でもグランプリをとってから変わりましたね。作品が認められるようになったりとか、お世話になってた人に感謝できるようになったとか、当時付き合ってた彼女との関係性とか。

 

ー考え方や価値観が変わったんですね。

鈴木:「もうどうでもいっか。みんなそれぞれ自分にしか撮れない写真を撮ってるわけだし。」って思えるようになりました。誰かに批判されて、俺の作品が傷つかなければそれでいいんだなって。極端な話、スルーされるか褒められるかのどちらかじゃないのかって。そう考えられるようになって楽になったんですよね。

元々俺はパンクバンドをやっていたので、とにかく人前でオリジナル曲を披露して、発散して、自己顕示欲を満足させられたらいいなって感じでした。写真も同じで、撮って、形にして、人に見せたら「俺は撮ってる」って言えるんじゃないのって思って。何をするにも必要なんですよ、パンク精神が。

 

ー音楽をされていた経験って写真活動にも活かされていますか?

鈴木:音楽も言葉にできないことを表現しているから、そこは写真と通じているものがあるんじゃないかと思います。エモーショナルな感情を培うっていう意味では、音楽をやってて自分が叫んでたりシャウトしていたことが活きてるっていうか、何かを表現したいって気持ちが昔から俺の中にありますね。

 

写真との付き合い方がフランクになった今

鈴木育郎 インタビュー

ー鈴木さんにとって写真とはどのような存在ですか?

鈴木:言葉にできない感情を相手に伝えるっていう役割もあるし、自分が外に出るための後押しをしてくれる存在です。

写真を撮っていなかったら分からなかったんだろうなっていうのは光の感じ方ですね。カメラを持ち歩いていたからこそ気づける街の景色だったり、「この時間の光の入り方がいい」っていう見方ができたんじゃないかと思います。

 

ーそうなんですね。

鈴木:前は写真きっかけで何かに繋げようとしていましたけど、今は写真を抜きにした生身の自分で人と関わっていきたいと思っています。写真を卒業したいんですけど、卒業しきれない感じもどこかにあって。やめたいけどやめれないんですよね。

以前は自分が強くなるために写真を武器として使っていたんですけど、今は写真がいらないんじゃないかなっていう感情もあって。

 

鈴木育郎 インタビュー

ー鈴木さんの中で写真との距離感や関係性が変わりつつあるんですね。

鈴木:新作の写真集を作ったり展示をして思うんですけど、昔より今の自分の写真の方が良いと思うんですよ。写真との付き合いがフランクになって、外に対しての攻撃的な部分もなくなってきてるし、前より写真と良い関係になってるんじゃないかと。

若いときは体を壊しながらバイトしまくって、そのお金をカメラにつぎ込んで写真に没頭する。それがストイックって捉えてしまってたんですけど精神的にすごく不健康じゃないですか。ちゃんと生活もできてないし、美味しい物も食べてなかっただろうし、そういう意味で今は凄く楽ですね。

 

仕事は写真家として、誰かの心に残る写真を。

鈴木育郎 インタビュー

ー現在も鳶職をしながら写真活動をされていますが、カメラを仕事にしようと思ったことは?

鈴木:写真を仕事にしたくないんですよ。写真で生活をすることになるといつか我慢してカメラを持たなくいけなくなってしまうから。

たまに仕事を受けるときもありますけど、それは俺のスタイルで撮ってほしいっていう依頼なので受けています。仕上がったものに文句もないし俺が撮るものを求めてくれているから引き受けようと思うんですよね。

写真業界とはほどよく距離をとって、別の仕事をしているから写真との良い関係性を保てているんです。別の仕事で生活できてる安心感があるからこそ、写真と上手く付き合えるし不安になることもない。

 

ー今後、鈴木さんの作品がどういう形で発信されていくのか楽しみですね。

鈴木:自分がどれだけあがいても時代の流れってあるから、その時々のブームに合わせた写真集が評価されるんですよね。

でもいつかみんな流行りに飽きるから、その時にパッと俺の写真を見て面白いなって思ってくれたらいいなって。

写真集を買わなくても心のどこかに残ってたらそれでいいと思うんですよね。

 

ーありがとうございました。

 

HIJU GALLERY 鈴木育郎特別展「終夏」

鈴木育郎 インタビュー

写真家 鈴木育郎さんの特別展 「終夏」が大阪の本町にあるHIJU GALLERYで開催されています。

プリント写真(A4サイズ4万円、全紙サイズ5万円)、写真集(5万5000円〜50万円)はギャラリーにて販売中。ほとんどがEdition1となっており、キャノン写真新世紀でグランプリを受賞した「鳶・CONSTREQUIEM」の作品も見ることができます。

また、10月5日には鈴木育郎さんと社会学者・作家である岸政彦さんのトークショーも開催されます。ぜひ足を運んでみてください。

 

写真展タイトル 鈴木育郎特別展「終夏」
開催期間 2019年9月14日(土)~10月14日(祝)
開催時間 13:00~19:00 (火・水・木曜日 休廊)
会場 HIJU GALLERY |大阪府大阪市中央区本町4丁目7-7 飛鳥ビル 102
展示情報URL 鈴木育郎特別展「終夏」展示情報ページ

 

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